○強風下における消防対策
(平成31年2月1日なし第10号)
第1 目的
本対策は、「糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防のあり方に関する検討会の検討結果について」(平成29年5月19日付消防消第117号)を受け、宇部・山陽小野田消防組合警防規程(平成24年訓令第27号)に基づき、強風下における密集地域に係る事前対策及び火災発生時の消防隊等の活動要領等について定めるもので、宇部・山陽小野田消防組合(以下「消防局」という。)の英知と消防力を持って被害の軽減を図ることを目的とする。
第2 強風下の定義
本対策における強風下とは、次を総称する。
(1)
強風注意報又は暴風警報が発表されている場合
(2)
火災気象通報を受けた場合
(3)
強風注意報の発表に至らずとも、通常よりも強い風が継続するなど、消防長が注意の必要な気象状況であると判断した場合
第3 事前の対策
1
消防体制の強化
(1)
強風下では火災防ぎょ計画等を作成している木造密集地域は延焼拡大の危険性が高く、多くの部隊を投入することが必要になることから、第2出動を第1出動とする。各署所は、消防団と密接な協力体制の強化を図る。
また、強風下では初動の段階から多くの消防力を迅速かつ的確に投入するため、非番の職員や消防団員の非常招集により、消防体制の強化を図る。
(2)
強風下においては、署所敷地外での訓練中止、積載ホースの増強を考慮するとともに、大口径ノズル等資機材の準備を行う。
2
水利の確保
(1)
強風下では多くの筒先による大量放水が必要となることから、十分な消火用水を確保するため、各署所で事前に水利の選定及び確保要領について計画する。
(2)
多くの部隊が集結することを想定し、仮設水槽の手配や設置場所、防火水槽・仮設水槽への充水活動について、各署所で事前に計画する。
(3)
充水活動については、小型動力付水槽車やポンプ車等による中継によるほか、協定を締結している民間事業者等の所有する車両及び資機材並びに地方整備局等の排水ポンプ車等を活用する。
3
広報活動
(1)
火災警報の発令時や火災気象通報を受けた場合など、火災発生前の警戒のため、巡回広報を実施する。
(2)
強風下で火災が発生し、延焼のおそれがある場合等には、市と連携し、火災覚知後速やかに防災無線や防災メール等により、周辺住民に対する警戒呼びかけなどを行い周知を図る。
第4 強風下における消防活動
1
強風下の火災の特性
(1)
強風下では火元の火勢が早期に延焼拡大し、通常時の火災と比べて延焼速度が非常に速く、風下へ向かって扇状に広がる。また、風速が大きいほど角度が狭まり、帯状に延焼する。
(2)
延焼の継続に伴い、大量の火の粉や燃えさしが風下の広い範囲に飛散することから、飛び火による火災が発生する危険性が極めて高い。
(3)
放射熱や接炎による隣棟間の延焼に加え、飛び火による火災により、延焼速度が格段に速まるとともに、同時多発的に広範囲に延焼拡大する可能性が高い。
(4)
延焼規模が拡大すると、火の粉や燃えさしが大量に発生、熱気流により高く舞いあげられる。また、建物上部の開口部の破損(火炎噴出)、屋根の燃え抜け、建物の倒壊などが発生した際には、これらの状況が激しくなる。そのため、火災初期を過ぎた頃から飛び火の危険性が一気に高まる。
(5)
風速が大きく異なることに伴い、火の粉や燃えさしの飛散距離は長くなる。条件によっては、火元からの飛散距離が数100mから1,000mに及ぶ危険性もある。
(6)
高層建築物の風下側及び建物間の路地等は、風速が増す、風が巻く等の複雑な風の影響により、接炎や飛び火による延焼の危険性が増すことがある。
(7)
複数棟が延焼している場合には火炎の立ち上がりが大きくなることから、幅員の広い道路であっても、放射熱や接炎により風下側へ延焼する場合もある。
(8)
風向は一定とは限らない。特に台風を含め低気圧の移動により風向が大きく変化していく場合がある。
(9)
地形や建築物の状況等が影響し、火元周辺では風が強く感じられない場合がある。
(10)
風速は常に変化する。また、熱気流の影響により風が複雑に変化し、火元付近と火元から離れた風下側での風速を比較すると風下側の風速が増す可能性がある。
2
筒先配備要領
(1)
出動各隊は火災の延焼拡大方向を予測し、風横及び風下への延焼阻止を主眼として活動する。
(2)
周囲への延焼拡大危険が大きい場合には、延焼阻止を主眼とし、特に延焼危険方向(風横側)に優先的に筒先を配備し、可能な限り多口放水による延焼阻止を図る。
(3)
更なる延焼の拡大のおそれが生じた場合には、地形や道路状況、建物状況を勘案し、延焼阻止線(風横・風下)を早期に決定し、筒先を集中的に配備する。なお、当該地域に火災防ぎょ計画がある場合には、計画に基づき、風向・風速を考慮して決定する。
(4)
風下側からの注水は、風圧により押し戻されて注水効果はほとんど得られないことから、筒先は風横側に優先して配備し、風下の風横側からホースを延長する。なお、延焼拡大にともなう筒先の移動を考慮し、延長ホースは1、2本多くとる。
(5)
噴霧注水や低圧の注水は風の影響で十分な効果が得られない。強風下では高圧のストレート放水を基本とし、最大流量で、可能な限り多口放水を行うこと。特に、火勢熾烈な場合には65mmホースを活用し、水量及び射程距離を確保できる大口径ノズル(23㎜以上のスムースノズル等)や放水銃を活用することが有効である。
(6)
注水は風を利用し、風速の弱い時は直接燃焼実体に注水し、風速が強い時には風に乗せて流すように斜めからストレート放水を繰り返す。
(7)
風下側などの延焼危険の高い建物へ予備注水を実施し、延焼阻止を図る。
風上側への延焼の可能性もあることを念頭に、筒先を配備する。
(8)
筒先の移動転戦を行う場合は、周囲の各隊と緊密な連絡をとる。複数の筒先で防ぎょしている際には1隊の放水中止により火勢が急激に増大する可能性があることから注意を要する。
(9)
ノズルや放口の急激な開閉は、ホースやポンプ等に損傷を与えるだけでなく、同一ポンプから複数口放水している場合には他の筒先に急激に圧がかかり、極めて危険であることから、開閉はゆっくり行う。
(10)
消防防災ヘリコプター、小型無人航空機等を活用し、上空からのライブ映像など現場付近の俯瞰情報を収集できる体制をとるなど、現場指揮本部等において延焼方向の予測や筒先配備等に活用する。
(11)
強風下の火災では飛び火の発生は比較的早い段階から始まることから、早期の段階から飛び火を考慮して部隊を配備する。
(12)
現場指揮者は、火勢が消防力を上回り、大火災に発展するおそれがあると判断した場合は、別紙の隣接消防本部等への応援要請判断基準(糸魚川大規模火災を踏まえた調査結果参照)を参考に時機を失することなく、山口県内広域消防相互応援協定に基づき早期に隣接消防本部等への応援を考慮し、部隊を増強する。
(13)
隣接消防本部等へ応援要請した際には、火災の状況、交通状況等を連絡するとともに、現場指揮本部は応援部隊の集結場所を指定する。また、到着した部隊に対し現場指揮本部より任務、使用水利及び防ぎょ担当面を指定する。
3
水利部署
(1)
風横の、大量かつ継続的な放水が可能な水利(自然水利や大容量の防火水槽)を優先的に選定する。
(2)
有効注水を確保するため、後着隊の消火栓への部署には特に注意が必要である。
(3)
長時間の活動が予想されることから、防火水槽への充水体制を確保する。なお、充水体制は地域の実情に応じてあらかじめ計画しておき、火災の状況により現場指揮本部により決定する。
(4)
延焼範囲の拡大とともに、多くのポンプ車等の水利部署が必要になることから、仮設水槽等の早期要請・設置・充水に配意する。仮設水槽の手配・設置場所は事前計画に基づき、火災の状況により、現場指揮本部により決定する。
(5)
原則として、応援隊等の後着する消防隊は自然水利を選定し、現場到着時に現場指揮本部において部署位置についても確認する。
4
気象状況の情報収集及び伝達
(1)
火災気象通報・強風注意報・暴風警報が発表された場合や、気象予報等により風が強くなることが予想されるなど、火災発生時に注意を要する気象状況となった場合には、職員に周知し、火災発生時の対応に備える。
(2)
火災出動時には、出動指令書等に記載されている風向・風速を必ず確認し、延焼拡大危険方向及び飛び火の飛散方向を予測する。
(3)
活動中に風向が大きく変化する場合があるため、消防局や通信指令課は地域時系列予報等の情報を収集し、現場指揮本部へフィードバックできる体制をとる。
5
消防職団員の安全管理
(1)
建物間や路地等に進入する際には、飛び火等により火勢が回り込み、退路を断たれるおそれがあることを十分留意しながら活動し、必要により監視要員を配置するなどの措置をとる。
(2)
強風下での放水活動は延長ホースが風に煽られ危険性が高い。また、放水が高圧かつ最大流量の場合には筒先の1人保持は困難であることから、放水1口に対する筒先担当員は2名以上とする。
(3)
強風による火の粉や飛散物から目を保護するため、防火帽の顔面保護板(シールド)を下げて活動する。
(4)
強風下においてはトタン板などの大きな部材も飛散することから、飛散物や落下物などに十分注意する。
6
住民への情報提供等
(1)
強風下で火災が発生し、延焼のおそれがある場合等には、住民が的確に行動できるよう、市と連携し、火災覚知後速やかに周辺住民に対して警戒を呼びかけるなど情報提供を行うよう努めること。
(2)
火災の状況から延焼拡大の危険性が著しく高い場合には、市長が遅滞なく的確に「避難勧告」、「避難指示(緊急)」の発令ができるよう、該当地域等を早期に市に伝達する。
第5 飛び火警戒要領
1
飛び火の特性
次に掲げる飛び火の特性を理解し、飛び火による火災の発生を防ぐ。
(1)
火災により発生する火の粉や燃えさしには、粉粒状のほか棒状、塊状など様々な形状や大きさのものがあり、小さなものほど飛距離が長く、大きいものほど熱量が大きく着火力が高い傾向にある。
(2)
粉粒状のものは、無数に飛散する細粉や粒であって、発生する火の粉の多くを占める。建物の内外を問わず、吹き溜まりができやすい場所に吹き寄せられたり、隙間に進入したりして炭化物が吹き溜まり、これらの場所に可燃物があると容易に着火する。
(3)
棒状や塊状のものは、柱、桁、母屋、梁、胴差、棟木等の燃えさしで、粉粒状のものと比較して遠くへは飛散せず、可燃物への着火力は強い。
(4)
延焼規模が拡大すると、火の粉や燃えさしが大量に発生、熱気流により高く舞いあげられる。また、建物上部の開口部の破損(火炎噴出)、屋根の燃え抜け、建物の倒壊などが発生した際には、これらの状況が激しくなる。そのため、火災初期を過ぎた頃から飛び火の危険性が一気に高まる。
(5)
風速が大きく異なることに伴い、火の粉や燃えさしの飛散距離は長くなる。条件によっては、火元からの飛散距離が数100mから1,000mに及ぶ危険性もある。
(6)
昭和初期など古い年代に製造された屋根瓦やスレートは、隙間から火の粉が侵入し、早期に着火に至る可能性がある。
(7)
近年製造された屋根瓦やスレートであっても、外観上は隙間が無いように見えても、微細な火の粉が侵入し、時間の経過とともに堆積して着火に至ることもあるので警戒が必要である。
(8)
下葺き材に木片や樹皮など燃えやすいものが用いられている場合や、葺き土が用いられていない場合には、より早期に野地板等への延焼に至る可能性がある。
(9)
火の粉の飛散方向・範囲は、風下になびく火煙等により視認が困難な状況となるおそれがある。また、昼間の場合に微細な火の粉等は視認不可能であるので十分注意する必要がある。
2
飛び火警戒の体制
(1)
強風下の火災においては、飛び火は必ず発生するものと考え、現場指揮者は早期の段階で出場部隊又は消防団の中から特定の部隊を飛び火警戒に当て、警戒体制を確立する。
(2)
火の粉の飛散が激しく、飛び火による火災発生危険が大であると予測される場合は、飛び火警戒に当たる隊(以下「飛び火警戒隊」という。)を増強する。
(3)
飛び火警戒隊が複数の隊で構成される場合は、消防吏員の中から指揮者(以下「飛び火警戒隊長」という。)を指定し、飛び火警戒範囲の指揮を担当させる。
(4)
飛び火警戒隊長は、警戒拠点、高所見張所等を設定するとともに、高所見張員、巡ら班、巡行警戒班及び待機要員等をもって警戒に当たる。
(5)
現場指揮者は、消防団に対し、飛び火警戒隊長と協力して現場広報等飛び火警戒に当たるよう要請することができる。
ア
飛び火警戒隊長は、消防団の警戒区域及び警戒方法等を具体的に示す。
イ
飛び火警戒隊長は、警戒拠点と消防団との連絡手段の確保に努める。
3
飛び火警戒隊による警戒要領
(1)
飛び火警戒隊長は、飛び火警戒のため適当な位置に警戒拠点を設定し、飛び火情報又は飛び火による火災発生の有無の情報等の把握に努め、必要により警戒員、資機材等の増強を行うとともに、現場指揮本部、高所見張所、巡ら班及び巡行警戒班と相互に連絡手段を確保しておく。
(2)
飛び火警戒隊長は、周辺の階層の高い建物の屋上等に高所見張所を設定し、高所見張員は、火の粉の飛散・落下状況、飛び火による火災の発生等の状況を携帯無線機等により飛び火警戒隊長に報告する。
なお、状況により、はしご車などの活用も考慮する。ただし、はしご車の性能はメーカー・車種・製作年度により性能が異なることから、強風下における伸梯については各車両の特性を把握した上で実施すること。
(3)
飛び火警戒隊長は、2名1組で巡ら班を編成し、主にポンプ車の進入できない道路、路地裏などを巡ら警戒し、着火しやすい箇所への火の粉や燃えさしの落下がないか確認する。また、拡声器等を活用して住民に注意喚起する。状況により、消火器やジェットシューターなどの準備にも配意する。
(4)
巡行警戒は、ポンプ車や広報車等の消防車両(可能な限り水槽付ポンプ車)により行い、着火しやすい箇所への火の粉や燃えさしの落下がないか確認する。また、車両拡声器を活用して住民に注意喚起する。
(5)
飛び火警戒隊長は、火の粉の飛散状況及び警戒実施状況を現場指揮本部に定期的に報告する。
(6)
飛び火警戒隊長は、飛び火火災を発見した際には直ちに現場指揮本部へ報告するとともに、必要な措置をとる。
(7)
飛び火警戒は、原則として当該火災が鎮火するまで実施するものとし、警戒体制の縮小・解除は現場指揮者の下命による。
(8)
飛び火警戒隊長は、引き揚げに際し、消防団又は自治会長等に対して警戒の実施状況等を説明し、以後の警戒について十分配意するよう要請する。
4
消火活動中の各隊による警戒要領
(1)
火災現場に出動している各隊は、飛び火についても最大限の関心を払う。
(2)
飛び火の危険方向又は落下範囲において活動中の各隊は、車両付近に即時に対応できるホースを準備しておき、飛び火による火災発生時に対処する。
5
付近住民に対する現場広報要領
飛び火警戒隊及び風下等の火の粉の落下が認められる区域に部署し、当該火災の消防活動に従事している隊は、付近住民に対して拡声器等を活用し、飛び火による火災の防止に関する広報を実施する。
(1)
窓及びドア等の開口部は閉め、屋内に火の粉が入らないようにする。
(2)
水バケツ等を使いやすい場所に準備する。
(3)
建物内外を随時見回って、発煙箇所等の発見に努め、発見したら直ちに初期消火に当たるとともに、付近にいる消防隊員等に伝える又は119番通報する。
(4)
火の粉が屋外に干している洗濯物、特に布団等に付着していないかよく確認し、速やかに屋内に取り込む。
(5)
火の粉が激しく落下している屋根や家の周囲等には事前に散水する等の予防措置をとる。
(6)
危険物を扱う事業所等には特に注意喚起する。
6
自主防災組織、自衛消防隊等との連携
(1)
飛び火警戒隊は、事業所の管理者又は自衛消防隊長に対して、自衛の対策をとるように指導する。
(2)
状況により、地域住民に飛び火警戒の協力を求める。この場合、警戒の実施場所や要領等を具体的に伝達する。
第6 教育・訓練等
1
消防職団員の教育・訓練
(1)
強風下における放水活動(大口径ノズルの活用等)及び延焼阻止線の設定について、実動訓練を実施する。
(2)
火災防ぎょ計画等を作成している地域などにおいて強風下での火災が発生したことを想定した図上訓練や実動訓練を実施し、消防職団員の活動能力の向上を図る。
2
住民への普及・啓発
市と連携し、次について取り組む。
(1)
平素から住民に対し、木造の建築物が多い地域などの大規模な火災につながる危険性の高い地域を確認し、強風下における火災や飛び火の特性も含めて、火災発生及び延焼リスクを周知する。
(2)
早めの避難行動をとるべき避難行動要支援者、高齢者、幼児などの要配慮者(以下「要配慮者等」という。)以外の周辺住民及び自主防災組織等が、安全かつ的確に初期消火を行うことができるよう、資機材の操作方法等の習得訓練を実施する。
(3)
消防警戒区域外の火元から離れた場所であっても、要配慮者等以外の周辺住民及び自主防災組織等が、自身の安全が確保できる範囲内で的確に火災状況の監視、延焼防止、飛び火警戒、早期通報などの活動を行うことができるよう、その周知及び訓練を実施する。また、火の粉や燃えさしにより着火しやすい箇所について、画像等を用いて周知し、飛び火による出火防止の普及啓発を図る。
(4)
周辺住民に対する声かけ、呼びかけなど避難誘導を行うため、「避難勧告」、「避難指示(緊急)」の発令状況や現場の状況の変化を、警察、自主防災組織等の各関係機関等へ確実に伝達・共有するよう市へ依頼する。
特に、要配慮者等については、避難までの時間を要することから、「避難準備・高齢者等避難開始」を活用するなど、住民及び自主防災組織等が連携して早めの避難行動が取れるよう、市と協力する。
附 則
この対策は、平成31年2月1日から施行する。
別紙
別紙
[別紙参照]